本人訴訟とは?
本人訴訟とは、弁護士を立てずに自分で裁判を行うことです。訴状の提出から証拠の準備、裁判所での主張まで、すべてを本人が行います。
「素人ができるの?」と思われるかもしれませんが、特に簡易裁判所(訴額140万円以下)で扱うような身近なトラブルでは、本人訴訟が一般的です。
- 簡易裁判所の民事事件では、75%以上が本人訴訟
- 少額訴訟(60万円以下)では、なんと99%以上が本人訴訟
つまり「本人訴訟=特別なこと」ではなく、むしろ一般的な手段なのです。
賃貸トラブルで本人訴訟が多い理由
賃貸契約をめぐる裁判の多くは、敷金や修繕費、原状回復費用などが中心です。請求額は数万円〜数十万円程度が一般的で、弁護士費用のほうが高くつくこともあります。
研究調査によると、敷金返還や原状回復紛争では借主がほぼ100%本人訴訟で臨んでいたという結果もあります。
主な理由は以下の3つです。
- 訴額が少額だから
敷金や修繕費の争いは数十万円規模が多く、弁護士費用が請求額を上回るケースもあります。 - 争点がシンプルだから
「敷金返還をめぐるガイドライン」など、国交省の指針があり、主張の組み立てが比較的容易です。 - 情報を集めやすいから
ネット上に訴状の書き方やテンプレートが豊富で、本人でも準備しやすい環境が整っています。
このような理由から、「費用倒れを避けたい」「自分でも戦える」と判断し、本人訴訟を選ぶ借主が多くなっています。
賃貸トラブルで本人訴訟を起こす流れ
実際に本人訴訟を行う際の基本的な流れは次のとおりです。
- 訴状を作成(簡易裁判所に提出)
敷金返還や修繕費の金額、経緯を明記します。 - 裁判所で期日を通知される
原告(あなた)と被告(大家・管理会社)に出廷日が通知されます。 - 口頭弁論・和解協議
主張や証拠を提示し、裁判官が和解を勧める場合もあります。 - 判決または和解成立
判決で敷金返還命令が出るケースも多く、和解による解決も一般的です。
少額訴訟制度を使えば、1日で審理・判決まで完了することもあります。
本人訴訟のメリット・デメリット
メリット | デメリット | |
---|---|---|
本人訴訟 | 弁護士費用がかからない 費用倒れを防げる 自分のペースで準備できる | 法律知識が必要 証拠や主張の整理が難しい 相手が弁護士を立てると不利になることも |
弁護士依頼 | 専門家に任せられる 手続きの負担が少ない 精神的に安心できる | 費用が高い(着手金・報酬) 少額訴訟では費用倒れのリスク |
少額の賃貸トラブルでは、本人訴訟のほうが費用対効果が高い場合もあります。とはいえ、手続きや主張に不安がある場合は、法テラスや無料法律相談を活用しましょう。
東京の少額訴訟:リアルな判例から学ぶ
実際に東京都で起きた少額訴訟の判例を見てみましょう。
敷金返還認められた事例(東京簡易裁判所/平成17年):マンション1室を事務所用途として契約していたが、実際には居住用と変わらない使用だったため、敷金約25万円が全額返還されました。契約上 “用途” は表面的なものに過ぎず、実態が重視されるという判例です。 nichijuken.or.jp
一部のみ認められた事例(東京簡易裁判所/平成14年):敷金25万円余を請求したが、約9万円強のみ認められる結果に。請求額と実際の返還額には差が出ることがあります。 裁判所
敷金からの控除が一部不当とされた例(東京簡易裁判所/平成20年):請求14万5000円に対し、返還命令額11万0641円。見積もりや状態の証拠が判断に影響します。 裁判所
特約が消費者契約法で無効とされた事例(東京簡易裁判所/平成17年):借主にとって過度な原状回復特約は無効とされ、敷金全額返還となった判決。契約書に書いてあっても、内容次第で覆ることがあります。
まとめ:賃貸トラブルは本人訴訟でも十分戦える
日本では「裁判=弁護士」というイメージがありますが、賃貸トラブルのような少額訴訟では、実際には多くの人が本人訴訟で解決しています。
- 簡易裁判所の訴訟の約75%は本人訴訟
- 賃貸トラブルでは借主のほぼ100%が本人訴訟
- 費用を抑えながら権利を守ることができる
少額でも泣き寝入りせず、自分で行動すれば正当な権利を取り戻すことが可能です。
もし手続きが不安でも、法テラスなどの支援を受けながら、安心して進めることができます。
「敷金が返ってこない」「退去費用が不当」と感じたら、本人訴訟という選択肢をぜひ検討してみてください。