『幸福な監視国家・中国』の「幸福」とは何か?

精神科医の香山リカさんがオススメの本『幸福な監視国家・中国』を読んでみました。

面白いのは第3章、4章

この本は第1章と第5.6.7章を梶谷懐 神戸大学大学院教授、第2.3.4章をジャーナリストの高口康太さんが書かれています。

本の前半は、日本で伝えられるジョージ・オーウェル『1984』のような中国の監視社会像は間違いだらけの報道だと主張する筆者による中国の現状のレポートです。

中国では、監視による「社会信用スコア」を国民が快く受け入れていると説明します。目からウロコです。

 

注目すべきポイントのページに付箋を付けながら読み進めていきましたが、付箋のほとんどは第3章、4章でした。

読みやすくわかりやすいのも、高口康太さんが書かれた部分でした。

第3章、4章は面白いです。時間がなければ、ここだけでも読めばいいと思います。

第3章 中国に出現した「お行儀のいい社会」
急進する行政の電子化/質・量ともに進化する監視カメラ
統治テクノロジーの輝かしい成果/監視カメラと香港デモ
「社会信用システム」とは何か/取り組みが早かった「金融」分野
「金融」分野に関する政府の思惑/トークンエコノミーと信用スコア
「失信被執行人リスト」に載るとどうなるか
「ハエの数は2匹を超えてはならない」
「厳しい処罰」ではなく「緩やかな処罰」/紙の上だけのディストピアか
道徳的信用スコアの実態/現時点ではメリットゼロ
統治テクノロジーと監視社会をめぐる議論
アーキテクチャによる行動の制限/「ナッジ」に導かれる市民たち
幸福と自由のトレードオフ/中国の現状とその背景

第4章 民主化の熱はなぜ消えたのか
中国の「検閲」とはどのようなものか/「ネット掲示板」から「微博」へ
宜黄事件、烏坎事件から見た独裁政権の逆説
習近平が放った「3本の矢」/検閲の存在を気づかせない「不可視化」
摘発された側が摘発する側に/ネット世論監視システムとは

 

より新しい形での言論統制

強制的な圧力や監視による言論規制は、諸外国や人権団体から批判されることが多いですが、最近の中国では、より新しい形での言論統制が導入され始めているそうです。

書き込んだ本人にすら検閲の存在を気づかせないのが「不可視の削除」です。書き込んだ本人からは通常の投稿と何一つ変わらないのですが、閲覧者には表示されないシステムになっています。ほかにも「リツイートができない」「検索で表示されない」「ハイライトに掲載されない」といったバリエーションもあります。書き込みそのものを削除するのではなく、拡散してネット炎上が起きないよう工夫されているのです。そのため「あんまり人の気を引かない書き込みだったのかな」と書き込んだ本人すら規制されたことに気がつかないわけです。(検閲の存在を気づかせない「不可視化」p.131)

 

って、これTwitterのシャドウバン(ShadowBan)と同じですよね。

つまり、中国と同じことが日本でも起こりつつあるわけです。

 

第5章、6章は内容が頭に入ってこず、少々、読みすすめるのが苦痛でした。

 

第7章では、新疆ウィグル自治区の再教育キャンプと低賃金での単純労働の問題が出てきます。

 

題名にある「幸福」ですが、題名からくる第一印象とは内容が少し違います。

この本には結論がなく、「幸福」についても明確な説明がありません。

「幸福」とは、社会全体として少数が不幸になっても多数が幸福になればよいということを目指す、というヒントが提示されています。

中国だけではなく、どこの国でも幸福な監視国家になり得るということを、よく考えてみるべきだと、本書は伝えています。

 

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