『アメリカ白人が少数派になる日 「2045年問題」と新たな人種戦争 』を読んだらトランプ大統領が当選した理由がわかりました

「本は最初から最後までを読む必要はない。少しでも参考になる部分やおもしろい部分がある本は良い本だ」という個人的ポリシーのもとに、気になった本についてひと言、コメントします。

タイムリーな話題の『アメリカ白人が少数派になる日』

矢部武さんの新刊『アメリカ白人が少数派になる日 「2045年問題」と新たな人種戦争 』を読んでみました。

 

目次は次のようになっていて、タイムリーなアメリカ社会の問題点について書かれている本です。

■もくじ■
はじめに
第一章 多数派支配の終焉で追いつめられる白人たち
第二章 移民、有色人種を攻撃する大統領
第三章 白人至上主義、極右テロの脅威
第四章 世界に広がる反移民主義と過激思想
第五章 白人支配の維持か、多文化主義の実現か
第六章 多文化主義は日本にとっても重要な課題
おわりに

 

米国社会の『白人の特権』を少しずつ変える転換点

全米で広がる抗議デモについて、6月14日に毎日新聞が、フリージャーナリストの矢部武さんの「米国社会の『白人の特権』を少しずつ変える転換点になる気がする」という意見を記事にしています。

 

見どころ、読みどころ

『アメリカ白人が少数派になる日 「2045年問題」と新たな人種戦争 』は、この『白人の特権』なるものに注目して、トランプ大統領がどうして生まれたかについて矢部武さんが考察された本です。

 

「はじめに」で、著者は次のように書いています。

2018年3月には、国勢調査局から、「このままのペースで有色人種の人口が増え続けると、2040年代半ば(2045年)には白人は少数派になるだろう」との人口予測が発表された。白人たちは衝撃を受けたわけだが、それはなぜか。

少数派になることにより、白人たちが『白人の特権』を失うことを恐れている、と筆者は分析をします。

2009年にアメリカ建国以来初めてのアフリカ系米国人のオバマ大統領が誕生し、アメリカの人種問題は大きく改善した、と思われたが、逆にそれが多数派の白人の不安につながり、トランプ大統領が生まれたというのです。

説得力のある内容で、この本を読むと、アメリカのミネアポリスで5月25日、黒人男性のジョージ・フロイドさんがミネアポリス警察の白人警察官デレク・シャビンに、足で喉首をおさえつけられる“チョークホールズ”という暴力的な拘束術によって死亡した。

この事件を契機に黒人差別への抗議デモが全米に拡大した背景もよくわかります。

 

白人至上主義者による極右テロについては詳しく書かれていますが、最近話題のアンティファについては書かれていなかったりすることは気になりますが、前半はトランプ大統領が何を守ろうとして、どのような層の人たちに支持されているかについて理解するのにとても参考になる内容でした。

 

多文化主義は日本にとっても重要な課題?

本書の「第六章 多文化主義は日本にとっても重要な課題」では、日本でも多文化主義社会が幸せをもたらすかのように書かれています。

しかし個人的にはそれについては懐疑的です。

アメリカのように歴史の浅い国とは異なり、日本においては、天皇家を中心にして伝統文化と宗教行事が一体化しており、一種の疑似血縁関係として国家が存在しています。

本書では、日本でも「単一民族幻想」からの脱却をすべきであると書かれているようですが、「単一民族幻想」ではなくて「天皇家を本家にした血縁関係思想」です。

日本での多文化主義とは、いいかえればこの天皇家を中心にした長い歴史と文化を共有できない人たちを増やすことであり、日本の尊厳についての問題と関わってきます。

その点についての考察が浅いのではないかということが、個人的には気になりました。

 

この第六章については疑問があるものの、その他の部分については勉強になる本でした。