2019年12月17日、文庫が発売になりました。
文庫では、単行本では追い切れなかった、「Y藤」の素性・現状と、売春島のその後が加筆されています。
「三重のあそこね。五人ほど売り飛ばしましたよ」。売春島の実態と人身売買タブーに迫る。
この記事は、『売春島 最後の桃源郷 渡鹿野島ルポ』の読書感想・レビューです。
渡鹿野島(わたかのじま)は小さな離島
三重県の渡鹿野島(わたかのじま)は、伊勢志摩国立公園内にあり、的矢湾(まとやわん)の奥に位置しています。人口わずか200人ほど、周囲約7キロの小さな離島です。
ここはかつて性風俗施設が多く立ち並んでいたことからマスコミなどが取り上げ、別名「売春島」と呼ばれていたそうです。
『売春島 最後の桃源郷 渡鹿野島ルポ』はフリーライターの高木瑞穂さんが、島の歴史から売春産業の栄枯盛衰についてたんねんに取材して解き明かした本です。
硬い文章で書かれていますので、そういう内容(どういう内容だよ?)を期待して読まれた方は、ちょっとがっかりするかもしれません。
タイトルとは裏腹に、そういう真面目な内容の本です。
売春島の栄枯盛衰
1965年に鵜方にいた四国の4人の女性が渡ってきて(実際は九州の人がいることが本書の後半で明らかになる)、島で自分で売春を始めたのが始まりだったことを、著者は取材でつきとめます。
当時は、渡鹿野だけではなく、鵜方を含めた周辺地域で売春が盛んだったそうです。
近くに三重海軍航空隊があり、「売春島」の名前が広まったのは、海軍飛行予科練習生(予科練)たちの口コミによるもの。
最盛期には、パチンコ屋が1軒、フードスタジオは2軒、置屋、ホテル、民宿、喫茶店、居酒屋、スナックと、島はまるで一大レジャーランドのようだったとあります。
しかし、2017年2月、著者の取材した当時で「置屋」は2軒、1軒はスナックで、もう1軒はお店を構えていない、そんな寂れた状況という…。
競売にかけられた売春婦が建てた離島の大型ホテル
渡鹿野島でどのように性風俗産業が発展し、凋落していったのかは、詳しくは本書を読んでもらうとして、この本でとても勉強になったことがありました。
それは、最後のエピローグで書かれていた内容です。
暴力団とつながりを持つ置屋の女将が経営する7階建ての大型ホテル「つたや」は、本書でも中心的な存在です。
売春婦から置屋経営に乗り出し、大成功した四国出身の岡田雅子さんが建てた大型ホテルです。
渡鹿野島での性風俗産業の中心であった「つたや」は経営破綻し、2016年に競売にかけられます。
落札価格が格安でも税金負担が重くのしかかる
7億円くらいの建設費で建てられた「つたや」は、買い手もなく、競売の売り出し価格はタダ同然の500万円でした。
これをとある人が投資目的で購入したようです。
ところが、競売での取得額が500万円ほどのところ、不動産評価額は1億4000万円だそうです。
すると国に払う名義変更のための登録免許税が約300万円、県に払う不動産取得税は約450万円、さらには、毎年、市に払う固定資産税が約280万円かかるそうです。
現状、ほとんど需要がないような物件でも、これほどの税金がかかるのです。
落札価格がいくら格安でも、税金は割引にはならないので、購入者にはその負担が重くのしかかります。
その上、建物を収益化するためには、数千万円単位の建物の修繕・リフォーム費用が必要です。
とたんに購入者は資金繰りに行き詰まってしまったそうです。
投げ売りされている地方都市のリゾート物件なども同じ構図のようで、
これでは、税金などの負担で、お客さんの来なくなったリゾート地などを再生しようとする計画にはリスクが大きすぎることになってしまいます。
僕は、売春島が凋落し、その後も復活の兆しが見えない一因には、風俗の多様化や時代の流れだけではなく、そうした行政上のゆがみもあるのではと思った。
(売春島 最後の桃源郷 渡鹿野島ルポ)
と著者の高木瑞穂さんは書かれています。
巨大リゾート施設などが廃墟になってしまう理由のひとつが、ここにあるのですね。
目からウロコの鋭い指摘で、このエピローグには感銘を受けました。
新潟県のリゾートマンションが、わずか10万円で売りに出されていたことがありました。それでもなかなか買い手は現れませんでしたが、そうした裏の事情があるわけですね。
文庫もじわじわ売れています。